歴史
竜の世界
それが、いつから続いていたのかはわからない。 恐らくは遥かな昔、 人間の尺度では想像すら適わない遠い昔からなのだろう。 荒ぶる自然の奔流の中で生まれたエネルギー生命体たる竜たちが、 世界中を闊歩していた。
竜が呼吸し、移動するだけでも、 暴風が吹き荒れ、 雷が迸り、 豪雨が降り注ぎ、 火が荒れ狂うと言う。 そんな彼らが支配する地は、 他の生物がまともに暮らせる所でなかったであろうことは想像に難くない。
この竜の世界は、 万では効かない程の長き年月に渡って続いたと思われる。
竜の滅亡
いったい何が起きたのか。 はっきりした事は何一つわかっていない。 間違いないのは、 繁栄の極みにあった竜たちの痕跡が、 ある時期を境に全く見られなくなることである。
恐らくは何かが、 途方もない大事件が発生し、 竜たちは滅亡したものと思われるが、 それすらも定かではない。 どこか別の次元に移住したとか、 今もなおどこかで眠りについているとかいった、 とんでもない説がもっともらしく語られることがあるくらいである。
とにかく、 今より数万年前に竜たちは居なくなった。 そして、それに代わるように大地に新たな生物たちが増えだした。 その中には、我らの先祖も含まれるのだ。
巨石文明
人間が築いた文明の最も古い痕跡は 紀元前 3000 年頃に現れる。 環状列石 やピラミッドなど、 各地に残る石造のモニュメントがそれだ。
この時代にどんな人たちが生活し、 どのような文明を築き、 何の意図をもってこれらモニュメントを製作したのか、 詳しいことはあまりわかっていない。 モニュメントに何かしらの魔術的な機能があるのではないかと研究している学者もいるが、 結論が出るまでには今しばらくの時を待たねばならないだろう。
ドラゴニア帝国
人類史上最も輝いていた国の一つ、 それが古代ドラゴニア帝国である。
その版図は大陸西部に大きく広がり、 その文明は今より優れた部分を持ち、 その支配は決して暴力的な物ではなく、 公正で賢明な施政であり、 民は帝国の一員であることを誇りに思い、 永い平和と豊かさを享受していたと言う。 各地には今もなお驚異的である数々の建造物が残り、 魔動工学に至っては未だ当時の水準に遠く及ばない。
しかし、偉大なる帝国も永遠ではなく、 いつの頃からか徐々に衰退し始め、 最後は真竜“ユティディーラ”の出現に端を発する戦乱の中、滅んでしまった。
あの偉大な国がなぜ滅びたのか、 あの優れた魔動技術がなぜ失われてしまったのか。 今でも、いや今でこそ無視できない、大いなる疑問である。
戦国時代
ドラゴニア帝国の崩壊による影響は大きかった。 広範な地域を勢力圏内に置いていた一大帝国の存在が失われたことにより、 大陸西部の広域に大混乱が生じたのだ。
日々生まれては滅びる国々。 故郷を離れ彷徨う難民たち。 難民は略奪者となり、更なる難民を生む。
数百年に渡り続いた戦乱により、 土地や人心は荒れ果て、 偉大な帝国の技術や知識はことごとく失われてしまった。
安定期
マルク大帝による大国家ゴール王国の成立を皮切りに、 戦乱も徐々に収束に向かう。
ゴール王国、 ノイエ・ドラゴニア帝国、 カーディック王国、 レムラ共和国、 カスティーリャ王国など 各地にある程度の力を持った国が生まれれ、 相も変わらず戦は絶えないものの かつての無秩序さはなりを潜めたのだ。
これらの国々は互いの利益を巡って、 裏で表で争いを続ける。 真の平和は、遠い。
歴史家イストール著『歴史総論』より抜粋