スタイル -サイコ-


2003/12/30


サイコ

 伝説上には、魔術や超能力の類は山ほどあったが、 科学的にそれらの存在を証明できたことは一度もなかった。 逆に、証明できないことを理由に、 存在を否定され続けてきた。

 しかし、長い地下での生活を終え、復興し始めた頃には状況は一変していた。 存在を認めざるをえないだけの、それら魔術や超能力の使い手が現れたのである。

 その原因は、人々の価値観の変化と、超常的な力を求める願望の発生にあると説明される。
 サイコの力は、情報量をエネルギーに変換することにより発現する。 しかし、サイコの力というのは強さの問題であり、微弱なものならばあらゆる人間が持ち合わせている。
 つまり、誰かが火をおこそうとしても、 それを見ている人々がそれを否定すれば、妨害する力が働いてしまうのだ。 これにより、科学が、文明が栄えた時代にはサイコは力を発揮できず、衰退の一途をたどっていたのである。

 それが、今や人々の意識が変化したゆえに、妨害されることは無くなった。 場合によっては、むしろ後押しされるようにもなった。

 全体的に見て技術は後退し、文明は衰退している。 外の環境は厳しく、人類の生活圏は大幅に減少している。 頼りになるのは、己の体力と知性。 今更、科学を信奉する理由がどこにあろうか。
 自分を救ってくれない力など、何の役にも立ちはしない。 怪しげだろうと何でも構わない。 それで自分が助かるのなら、それでいい。 むしろ、自分こそがそんな力を欲しい。

 例えば人々は、そんな考えを持つ。 そして、サイコは復権を果たしたのだ。


念動力

 念じるだけで物理現象を起こすということは、 どこからかエネルギーが湧いて出てくるとでも考えなければ、説明がつかない。 これが、念力の存在を否定する材料の一つであり、 念力の存在を認めざるを得なくなってからは、 原理を説き明かそうとする人の頭を最も悩ますものであった。

 そんな念動力の解析は、情報空間の仮定から始まった。 イアン=トムニフィ博士の提唱した情報空間は、 最初こそ無視されたが、 月日が経ってから徐々に認められ始めた。

 脳は物理的な意味でのみ成り立っているのではなく、 情報空間にアクセスして情報処理を行っていること。 質量とエネルギー間に等式が成り立つように 情報量とエネルギー間にも等式が成り立つこと。
 情報空間にバイパスを通して、 情報量をエネルギーに変換、制御するのが、サイコの持つ念動力の正体なのである。

もっとも、未だ分からないことも多い。
 物理空間に現れる、念動力による物理現象の形は様々である。 どのような過程で、どのような方法で変換・制御を行えばそれらのような結果が生まれるのか。 まだ、研究は始まったばかりである。
 いずれは、科学で再現できる日もくるかもしれない。


魔術結社

 実は念動力は、古くから研究されていたものでもある。 その証拠が、現代まで生き延びた「魔術」である。 生まれつきのサイコが感覚と感性だけで念動力を行使するのに対し、 理論と訓練によって念動力を発達させようとした成果が魔術である。

 ただし、理論といっても不完全なものであり、 誰でもサイコになれる、といったものでは決してない。 むしろ念動力を効率よく使う方法の開発、と言った方が正しいだろう。

 念動力を使うのは、あくまでも脳である。 そこには、発声や文字の入り込む余地などない。
 では、魔術とは何であるか。 それは、脳が働きやすいようにするための、方向付けに他ならない。 情報空間にアクセスするという行為を、 決まり文句や動作によって明確に方向付け、 迷いをなくして確実に念動力を発揮させようというのである。 当然、熟練すれば念じるだけで問題なく使える (大概の場合は、確実性を増すために呪文や動作も併用するのだが)。

 この方向付けのために、 本来サイコとしての能力があまり高くなく、 念動力を行使できる域まで到達できないレベルの者でも、 訓練によって確かな効果を発揮できるようになる。
 これが、「魔術」の力なのである。

 そして、サイコの力が公になった今、魔術を教える結社は、 古くから続く物に最近になって生まれた物を加え、それなりの数に登る。 以下に、いくつかの例を上げる。


皇(すめらぎ)会
 宗教系の魔術結社。 元は日本国の民族宗教である神道が、 長い年月の間に変質しながらもかろうじて生き残った姿である。 ヤマト・シティの支配者に保護され、 同都市内では圧倒的な勢力を誇る組織でもある。

 基本は宗教であり、 テンジン神という、太陽の神を奉っている。 そして、神をたたえるミコトノリを唱え、 神の力を借りるという形での、念動力の使用法を教えている。

ゴッド教
 宗教系の魔術結社。 キリスト教を破門された元神父が、 キリスト教を下敷きにして作り上げた宗教である。

 彼は聖書を魔術書のように扱い、 サイコとしての能力を利用して奇跡を実演してみせた。 実際に奇跡を起こして見せることにより勢力は増し、 現在では世界最大規模を誇る宗教団体となっている。

 神を崇め、神の名を称えれば奇跡は起こる、 という論法で念動力を使用する。

ゴールデン・トワイライト・ソサエティ(黄金の黄昏結社)
 最も正統派の魔術を教えるとされる魔術結社で、割と最近に造られた組織でもある。

 発端は一冊の魔道書だった。
 それは、20世紀初頭に活躍した魔術師、 アレイスター・クロウリーの書いたものであった。 偶然にこの本を手にしたとある青年は、 すっかりそれに傾倒してしまった。 そして独学で魔術を学び、(恐らくは才能があったのだろう) 公に認められる魔術師となりおおせてしまったのである。

 アレイスター・クロウリー Jr.と名乗った彼は、様々な派手なパフォーマンスを行い、 時代の人となった。
 そして、その能力や知名度を利用して好き勝手にやりたい放題に振る舞い、 最後には、悪事を暴かれて逮捕、処刑されてしまったのである。

 彼の人生はそこで幕を閉じたが、 彼の作り出した魔術は、弟子たちに受け継がれた。
 そして、悪行のためにその名声は地に落ちた観があったのだが、 結果として、悪名は無名に勝った。 さんざんなことをしでかした、逆に言えばしでかすことができたその能力を、 多くの人間が欲しがったのである。

 こうして、現在はほぼ世界中に広がる最大級の魔術結社となっている。


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