人の住む所 -シティ-


2003/12/29


シティ

 シティを一言で説明するならば、「キャピタルの成り損ない」である。

 文明を、技術を、高いレベルで保持しているキャピタルに対し、 シティは格段に見劣りするものしか持ち得ていない。

 そこに住む者たちは、 文明の継承者であることを、 人類の先導者たらんことを強く望むのだが、 実力が伴わないのが実情なのである。

 しかし、そうそう悪いことばかりでもない。 シティは少なくとも、キャピタルと比べれば自由だ。 確かに、都市特有の閉塞感、不自由さなどはある。 だが、コンピュータの管理による束縛の有無という根本的な差異が、両者にはあるのだ。


成り立ち

 シティも、キャピタルと同様にシェルターから 出てきた者たちが作り上げた物である。

 最新鋭のコンピュータがなくとも、 それなりの設備を持ち、避難が比較的スムーズに行われたようなシェルターでは、 ある程度の文明を維持することに成功していた。

 記録と、教師と、教わる意欲のある者が揃えば、 (即実用に結びつかないため)かなりの欠落は避けられないものの、 伝達自体は行われる。 そして、地上に上がった子孫たちは、伝えられた知識と、 残された記録と、保存されていた道具を駆使し、 地上に都市を建設したのだ。


文明

 シェルターの中で過ごした長い年月は、それまで培った技術を衰退させた。

 原理はわからないが、マニュアル通りに動かせば作動する機械やコンピュータたち。 経験則によって行われる修理やメンテナンス。 そう、すでに彼らは、多かれ少なかれ新しい物を創り出すために必要な物を失っていたのである。

 それでも、彼らの元には多数の道具が残されており、生活を豊かにしてくれた。 清浄な空気と水、食料、服飾品など、生活必需品を生産してくれる自動プラントに、 建設機械や資材の数々、 それに半分も理解できない膨大なデータの群れ。

 曲がりなりにも過去の遺産を受け継いだことにより、 シティは強い力を持つことになる。 しかし、その力はいつまでもは続かない。 研究、学問の分野に労力を注ぎ、 技術水準を上げる政策を取っている都市もあるが、 衰退するに任せて、ただ、今の豊かさを享受する都市もある。 その行く末は、不透明だ。


生活環境

 シティを象徴する物の一つとして、富裕層の住む中央部と貧困層の住む外周部との格差がある。 中央部は清潔で治安も良く、それこそキャピタルに匹敵するような街並みや生活を実現している所も珍しくない。 その反面、大概の場合はスラム化した貧民街がどこかに存在し、そこでは治安も何も無くなっていたりする。

 キャピタルと違って人間が管理しているという現実、生産量と消費量のアンバランス、人口の流入に流出など、 様々な原因によってなされている。ただ、それは裏を返せば、キャピタルよりも柔軟であることを意味する。

 安全のために外部との出入りを制限する所もあれば、発展を求めて門戸を開放する所もある。 より強固な安定を求めて厳しい法を敷く所があれば、自由を求めて自己責任に任せている所もある。 多くの人間が集まってある程度の平均化された統治をしている所があれば、 一人の人間が己の価値観に従って統治している所もある。

 互いに争い、興亡を繰り返すその様は、かつての人類の歴史と何ら変わる所はない。 それは、いつの時代もより良い形を求めてうごめく人間の性なのかもしれない。



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