歴史2


2003/12/30


地下世界

 造られたシェルターは、大きく分けて2種類あった。

 1つは、先進国において重要人物を収容するために造られた 高級なタイプである。 これには、小型のバイオスフィアが実現されており、 植物プラントによる空気浄化、 プランクトンを利用した汚物処理システム、 水耕栽培とアミノ酸合成による食料生産システム、 それを利用した(極小規模ではあるが)畜産システム などが、 付属の2基の原子力発電所を動力源として動いていた。
 そして、その全てを最先端のコンピュータと、その制御下にあるロボットが管理するのだ。

 もう1つは、なるべく多くの人間を収容するために造られた 安価なタイプである。
 こちらは前者に比べてずっと簡易なものとなっており、 汚水を処理して飲料水を作り出すシステムのほか、 補助的に植物を利用してはいるものの、 空気は幾重にも重ねたフィルターを通して地上への換気を行い、 食料は保存用の固形食を大量に倉庫に詰め込んであるだけだった。 管理用のコンピュータもあるにはあるが、 その性能はワークステーション1台分のレベルでしかなかった。

 前者のタイプでは、トラブルや故障が発生せず、 かつ人口が許容量以内である限りは安定した生活が営めるため、 大した問題もなく人々は新たな日常に入っていった。

 しかし後者のタイプでは、そうはいかなかった。 貯蔵されている食料には限りがある。 さらに暴動によってシェルターを乗っ取ったようなケースでは、 限界以上の人間を詰め込んでいることも多かった。 各施設の耐久性能も低めで、頻繁な補修、改築が必要であるのに、 資材や工具は十分ではなかった。

 こういった所では当然、 初期の段階で大きな揉め事が発生することになる。 このままでは長期に渡っての生活は不可能である。 しかし、いつ出られるのかわからない。 至急、対策を立てる必要があった。


生をかけて

 あるシェルターで実際に行われた事例を挙げよう。

 そこではまず、シェルターの一部を破壊することから始められた。 外の放射能やウィルスが進入しない程度の深度の壁を壊し、 地肌を露出させたのである。
 そして、その土と電燈の灯りを利用した耕作を始める。 その後、地下水を見つけ、飲料水その他生活用水として利用するようになり、 人口が増えてきたら空洞を広げ、居住地としての使用すら始めた。
 こうして、シェルターを中心とした地下都市を築き上げ、 そこで生活をするようになったのだ。

 これが成り立つために発電所の維持など、 幾つもの条件が必要とされたが、 この例では、一度軌道に乗ってからはさしたる問題も起こらず、 地上に戻る時まで血を絶やさずにいることに成功した。

 もちろん、全てがこのように上手くいったわけではない。 内紛で再建不能なまでのダメージを負ってしまい、 そのまま滅びの道を歩んだ例や、 初期不良によるフィルターの誤動作や発電所の致命的な故障といった、 設備面での問題により崩壊した例などもある。
 むしろ、このような状況の悪さをはね返して生き延びた 人間のしぶとさに感心すべきかもしれない。


不断の闘争

 整備されたシェルターにしろ、 独力で生産施設を作り出したシェルターにしろ、 安定した生活を営むことが可能であるからといって、 それで全てがうまくいくわけではなかった。

 例えば、人間どうしの争いがある。 人が多く集まれば、そこには貧富の差が発生し、 確執や怨恨が生まれ、争いにつながる。
 これは、歴史上、幾度となく繰り返されてきたことである。 このとき、過去の事例と異なったのは、 それが閉鎖されたシェルター内で起きたということである。

 シェルターの許容量は、地上に比べるまでもなく、圧倒的に小さいものである。 争いは容易に世界を破壊し、修復不能なまでに追いこんだ。 酷い場合には、例えば発電施設を破壊してしまい、 人々は闇の中で息絶えていったようなシェルターもあった。
 そこまでいかなくても、長い年月が経つ間、 確実に過去の遺産は壊れていき、受け継ぐべき技術は廃れていった。

 それは、人類が再び地上に戻ったその日まで、続いたのであった。


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